エボラウイルスとインフルエンザウイルスは区別できるの?

#19. エボラウイルスとインフルエンザウイルスは区別できるの?

Q

先日(2014年10月現在)遂にアメリカやスペインにもエボラ出血熱の患者が発生したようで、グローバル化の昨今日本にもいつ上陸してもおかしくないと思います。これからインフルエンザもはやる時期となりますが、高熱で発症した場合にエボラウイルスと区別できるのでしょうか?

A

エボラ出血熱は致死率の高いウイルス性出血熱

 エボラ出血熱はエボラウイルスによる急性熱性疾患であり、ラッサ熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱とともに、ウイルス性出血熱の一疾患です。エボラ出血熱はフィロウイルス科エボラウイルスによる感染症で、4種あり病原性が異なりますがその致死率は50〜90%と非常に高いようです。1970年代以降中央アフリカ諸国(コンゴ、スーダン、ウガンダ等)で数十人から数百人規模の散発的流行を認めていましたが、1994年以降頻繁に大流行していて、今回は最大規模の流行となっています。 アフリカの健康人の抗体保有状況からは不顕性感染(病気として発症しない状態での感染)もあると考えられています。また、サルの抗体陽性率の調査から、エボラウイルスは中央アフリカの森林の広範囲に存在すると考えられています。

 

エボラウイルスは患者の血液や体液を介して感染

 エボラウイルスの自然宿主(感染しても致死的な病気にならない宿主)は特定されていないため、人への感染経路は不明ですが食用コウモリや感染した野生動物からの感染が考えられています。人とサル類で重症化してしばしば致死的な出血熱を起こします。患者や感染者からは、血液・体液・汗や母乳等の分泌物・血便・臓器等に触れた際、ウイルスが傷口や粘膜から侵入することで感染します。感染力は強いもののインフルエンザのように咳を介した空気感染はしないと考えられています。極端な病原性と予防ワクチンや有効な抗ウイルス剤のないことから最も危険度の高いバイオセーフテイレベル4に分類されています。

 

発症初期はインフルエンザ様症状

 潜伏期は2 ~21 日(通常は7~10日)で、発症は突発的で進行も早く、38℃以上の発熱、頭痛、咽頭痛、筋肉痛、腹痛等のインフルエンザ様症状から重篤化するようです。進行すると歯肉や消化管の出血が70%にみられ、特に死亡例の大部分でみられますが、必ずしも伴うわけではないことなどから、近年ではエボラウイルス病と呼称されることが多いようです。圧痛や叩打痛を伴う肝腫脹は特徴的と言われています。出血傾向をきたす機序としては、感染細胞から過剰に分泌される組織因子によって、血管内での血液凝固反応が亢進する結果凝固因子が過剰に消費され不足していく播種性血管内凝固症候群(DIC)に陥り、血液の凝固システムが破綻を来たす他に、血管内皮細胞の透過性亢進等が考えられています。またエボラウイルス属の遺伝子変化の速度はインフルエンザウイルスの100倍以上遅くB型肝炎ウイルスと同程度であると考えられています。

 

確定診断には実験室レベルの検査が必要

 検査所見では初期の好中球増加、リンパ球・血小板減少や肝機能異常、凝固時間の延長などが認められます。確定診断には実験室レベルの検査が必要で、国内では、国立感染症研究所のみが対応可能です。 RT-PCRによるゲノムの検出、蛍光抗体法あるいはELISAを用いた抗原や特異抗体の検出等で行います。最も確実な診断法は血液、体液等からウイルスを分離することですが時間を要するうえ、国内では対応困難な特殊な設備が必要です。

 

ウイルスとの接触を疑う履歴の有無の確認が重要

 鑑別診断としては、上述の他のウイルス性出血熱をはじめマラリア、腸チフス、細菌性赤痢、コレラ、レプトスピラ症、ペスト、リケッチア症、回帰熱、髄膜炎、肝炎等があります。

診断に当たっては,発症前3週間に

 1) 患者の体液等(血液、体液や吐物・排泄物など)との直接接触

 2) 流行地域への渡航や居住

 3) 発生地域由来のコウモリ、霊長類等に直接接触  等の履歴の有無の確認が重要です。

医師が臨床的にウイルス性出血熱を疑った場合は、1 類感染症の対応に従って直ちに最寄りの保健所、国立感染症研究所や感染症情報センターへ相談する必要があります。

 

有望な治療薬も開発中

 治療法としては、ウイルスを直接抑えるような特効薬は残念ながら未だ確立されていませんが、国内の富山化学工業が開発したインフルエンザ治療薬のファビピラビルはじめ海外でもいくつかの治療薬が有望視されています。回復困難な出血傾向や多臓器不全を来たす前にウイルスの増殖を抑える有効な治療薬の早期開発が切望されます。また感染の拡大予防対策としては、患者に直接触れないことと、インフルエンザウイルスやノロウイルスなどの場合と同様に、ウイルスの失活化に有効である次亜塩素酸ナトリウムや他の洗剤による患者周囲の清掃と消毒の徹底が重要です。

 いずれにしてもかつてない今回の大流行は20年近く前のエボラ出血熱を題材にした映画『アウトブレイク』を思い起こさせるようで、今後の展開を慎重に注視していく必要があります。

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